罪深き90分の空旅! 「オレのスッチーに何すんだ‼️」受刑者も刑務官もやはりただの「男」《いよいよ帯広刑務所へ》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.5
◼︎ボクの目は超エロモードのスケベな顕微鏡
ボクは罪深きスッチーのお尻を間近で観察できる喜びに胸をワクワクさせた。何たってボクたちは数時間前まで、女なんて代物は夢で見るか記憶から引っ張り出してエッチな場面を想像するか、週刊誌で見ることぐらいしかできない世界にいたのだ。だからボクの目は超エロモードのスケベな顕微鏡になっていた。
隣では、そんなボクの精神状態など露ほども知らない担当が、静かに週刊誌を広げていた。件のスッチーがいよいよ相棒たちの座席へ来て、微笑みながら、「何か御用はありませんか?」と担当に声をかけた。
すると、相棒の二人は手錠をはめた手を揃えたまま、バカ面を晒して、「異常ありません!」と、担当の代わりに答えてしまったのである。
何が異常ありません、だ。異常あるのはお前たちの方だろうと、ボクは自転車ドロボーと下着ドロボーのドラッグ患者の相棒たちに呆れ返った。
相棒たちの隣に座っている担当から、「お前たちは余計なことは言うな」と注意を受けた。ボクはおかしくて、腸が捻じれそうだった。
そんな相棒たちの座席から、スッチーがボクの座席のところへやって来て、まるで天使が微笑むかのように「何か御用はありませんか?」と声をかけてきた。
目の前に現れたスッチーの美しくグラマラスな姿態を目にした途端、ボクは情けなくも魂を抜かれてしまった。ポカンと口を開けたまま、スッチーに見惚れているボクは、相棒たち同様、間抜け面を晒していたのである。
スッチーの声に、週刊誌から顔を上げた担当は少し気取った顔で、「大丈夫です」と言ったが、ボクには、その態度はスッチーを意識しているかのように見えた。
スッチーは、口元に微笑を湛えたまま、パンティラインを浮き立たせたエロチカなお尻をわざと担当の鼻面でプリッと揺らすようにしてから、次の座席へ移っていく。
そんなスッチーの右に左に揺れ動くお尻に、ボクの目も右に左に揺れる。興奮の極みに達していて息苦しかった。そして今にも鼻血が噴き出しそうになってもいる。
ボクの理性の糸は切れかかってはいたが、どうにかギリギリのところで突き上がる衝動を抑えていた。気がつくと、隣で静かに週刊誌に目を落としていたはずの担当も、いつの間にか身体が通路側に倒れ、週刊誌の隙間からプリプリのスッチーのお尻に喰らいついていた。後ろを振り返ると、相棒の二人も、目を皿のようにしてスッチーのお尻に喰らいついていた。
このスッチーのお尻はあまりにも魅惑的で、檻から出てきたボクたちを狂わすには十分なほど罪深いものだった。常に襟を正していなければならないはずの刑務官さえも、その誘惑に負け、職務を忘れてしまったほどなのだ。やはり刑務官もただの男だったのである。
やがて、眼下に夏の強烈な陽光に映えてギラギラと輝く津軽海峡が広がり始めた。エンジン音が変わり、機は着陸態勢に入る。窓の外に大雪山系の山々が姿を現すのと同時に、色とりどりに塗り分けられたマッチ箱みたいな屋根が点在しているのが見えた。
空港に着くと、後部出口のタラップの下にはすでに出迎えのバスが待機していた。護送バスのドアを開けたところには、濃いグリーン色の制服を着て編み上げのブーツを履いた帯広刑務所の刑務官が、直立不動のまま敬礼をして立っていた。
ボクたちは手錠をはめた手にそれぞれの荷物を持つと、青い腰紐を打たれた姿でタラップを降りた。このときボクたちを最後まで見送ってくれたのが、件のスッチーだった。口元に微笑を湛えたまま、軽く会釈してボクたちを見送ってくれる。ボクはお世話になったスッチーの罪なお尻を一瞥すると、「バイ、バイ」と呟いて別れを告げた。
ボクたちと一緒に破目をはずしていた担当は、まるでそんなことは忘れているかのようにすました顔をして平然としていた。
ボクたちを乗せた護送バスは一路、帯広刑務所へ向けて出発。ほんの1時間30分の短い空の旅は、これから何年か刑務所暮らしを余儀なくされるボクたちにとって、図らずも命の洗濯となったのだった。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。